主婦に人気! 重曹を加えた新発想のタワシ
主婦に人気! 重曹を加えた新発想のタワシ
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エステーが今年3月に発売した『パワーズ重曹ブラッシュ』が主婦の間で評判だ。販売数は、発売からわずか2カ月で30万個を越えた。今も、問屋や量販店からの問い合わせが引きも切らないという。
『パワーズ重曹ブラッシュ』は、タワシに重曹と研磨材を加えたもの。タワシに重曹をつければ、簡単に代替できるようにも見える。しかし、その構造は実は複雑。開発の過程では、「発売は無理かも」と思うこともあった。奮闘の軌跡を、エステー商品開発グループ・明神恭弘氏に聞いた。
台所仕事を手伝う中で生まれた
──この『パワーズ重曹ブラッシュ』は、明神さんが、奥様の台所仕事の手伝いをしているときにアイディアを思いついたそうですね。
明神 そうです。台所で鍋の焦げ付きと格闘しているとき、「もっと簡単にきれいにできないだろうか」と考えたのがきっかけです。ただ、こうやって取材を受けるたびにこの話をしているので、妻からは「恥ずかしいから、そういうことを言うのはもう止めて」と厳命されています…
明神 恭弘氏 エステー商品開発グループ
私はエステーに入社して以来、ずっと商品企画・開発に携わっています。これまでに40〜50の商品を市場に送り出してきました。商品化のアイディアは、日常生活の中からヒントを得ることが多いですね。「こういう商品があったら便利だろう」と頭で考えて商品化するのではなく、実地に体験し身体で実感したことから商品化する。そのほうが、消費者のニーズにより近いものが作れると考えています。
こういう考えになったのは、私のかつての上司の影響が大きくあります。彼はこんなことを言っていました。「冷蔵庫の脱臭剤って、なかなか良いものがないよね」。「炭の消臭力ってすごいんだけど、ちょっと使いにくいよな」。それで彼が開発したのが弊社のヒット商品『脱臭炭』です。身の丈感覚のものづくりが消費者の支持を受けた好例です。
もちろん、実体験を元に商品化すれば必ず売れる、というわけではありません。それが商品企画という仕事の難しさでもあります。幸い、『パワーズ重曹ブラッシュ』は、これまで私が手がけてきた商品の中でもトップクラスの売れ行きです。「1年間で30万個」が当初の目標だったのですが、発売1カ月で24万個が売れました。その翌月にはあっさり目標の30万個をオーバー。2カ月で1年分が売れた計算です。
目標を超える販売数の背景は、期待値が高い重曹を、使いやすくしたこと
──『パワーズ重曹ブラッシュ』は、化学繊維のタワシに重曹を加えたもの。失礼を承知で言えば、ごく単純な商品に見えます。それがこれだけヒットした理由はなんでしょうか。
明神 まず、「確かに汚れがよく落ちる」という機能性の高さがあります。実際に使ってみて「これはいい」と思っていただけなくては、次に買ってもらえない。リピーターが増えなくては、2カ月で30万個も売れはしません。
また、「鍋の焦げ付きを落とすのに重曹が効果がある」という認識が主婦の間に普及していたことも挙げられます。弊社の調査では、全家庭の27パーセントが重曹を常備しているとの結果が出ています。
その一方で重曹は、保管や管理が面倒。やはりタワシと一緒に使わないと、思うような洗浄効果が出せないといったこともある。これもまた主婦の方が普通に認識していることだと思います。つまり「重曹」という言葉の持つブランド力や信頼度を背景にして、重曹を使う煩わしさをうまくカバーする商品をつくった。だからヒットにつながった、と考えています。
そういう意味では商品名に「重曹」を入れたこともヒットの要因としては大きいでしょう。ネーミングについては弊社のマーケティング部が最終的な決定を下すのですが、発売にあたっては「どうしても『重曹』という言葉を商品名に入れたい」と強力にプッシュしました。
ネーミングは、私の特にこだわる部分です。基本は「名前だけで商品の性質や機能が分かるもの」。そう考えるのは、私が日常生活の中から商品開発のアイディアを得ていることとも関係していますね。スーパーなどの店頭で商品を見た消費者が、直感的に理解できるものでないと駄目なのです。
『パワーズ重曹ブラッシュ』についても、事前にいろいろ候補を出しました。『重曹塊』、『重曹洗』、『三重曹』など。特に『三重曹』のネーミングは思い入れがありました。というのも、この商品はナイロン製のタワシに重曹、そして研磨材も添付してある。「この3つのハーモニーで強力に汚れを落とすのだ」という気持ちを込めた自信満々のネーミングでした。それだけに、「分かりにくい」とあっさり却下されたのは残念でした。
──『パワーズ重曹ブラッシュ』の開発・発売にあたっては、どのようなことに気をつけましたか。
明神 商品化の過程で困難にぶつかると、人は必ず妥協する方向に流れて行ってしまうんですね。それをどう押しとどめて軌道修正するか。そこに心を砕きました。私には「こういう性能を出したい」という理想がある。その理想の通りに完成すれば問題はないのですが、化学法則を越えたことはできません。どうしても諦めざるを得ないところや、妥協するところが出てくる。つまりは理想と現実のバランスを取ることに気をつけていた、ということです。
『パワーズ重曹ブラッシュ』のケースでは、こんなことがありました。開発チームが最初に出してきた製品を見ると、ナイロン製のタワシに、単に重曹がまぶしてあるだけだったのです。
私は即座に却下しました。「これでは、タワシに重曹をまぶして洗うのと変わらないじゃないか。商品化する意味がない」。「手に持っても重曹の粉がつかないタワシが欲しいんだ」と。私は『パワーズ重曹ブラッシュ』を、重曹の固まりにしたかった。究極的には、重曹を繊維化したタワシにして世に出したかったのです。
──化学に疎くて恐縮です。重曹を繊維化することなんて可能なのですか?
明神 本当にそんなことができたらノーベル賞ものですね。ですからそこは妥協しました。仕方がない、重曹を繊維化するのは諦めよう。しかし「手に持っても重曹の粉がつかない」は実現するぞ、と。タワシに重曹をまぶしただけでは、一度何かを洗っただけで重曹が流れてしまい、もう使えなくなる。それでは駄目だ。この商品は少しずつ重曹が染み出してきて、ある程度の期間、一定の性能を保つものにする、と方向を決めました。
いろいろと試行錯誤はありましたが、この要件はナイロン繊維と重曹とをポリマーでコーティングすることで実現できました。使っていくうちにポリマーが破けて重曹が徐々に染み出していくので、長期間にわたって安定的に洗浄能力を維持できます。
ただし、技術的に「できた」ものの、依然として問題が残りました。というのもポリマーコーティングは焼成で行なう。そのため洗浄力を最優先にして製造すると、タワシはどうしても茶色になってしまうのです。
店頭で売られているスポンジやタワシ類は、総じて明るい、奇麗な色が多いでしょう。これは家庭の台所で使われることを想定しているからです。そして『パワーズ重曹ブラッシュ』もまた家庭用タワシです。ですから私は、これを茶色にすることは避けたかった。
結局、焼成の温度と時間とを厳密に管理することで解決しました。重曹の洗浄能力はそれほど落とすことなく、しかも、台所に置いても違和感のない緑色に仕上げることができました。社内では反対がありましたけどね。「茶色でいいじゃないか」。「奇麗な色にするとコストがかかる」。「色にこだわるなら、タワシに重曹をまぶすだけでもいいじゃないか」と。
──社内に「茶色でいいじゃないか」、「タワシに重曹をまぶすだけでもいいじゃないか」という声があったのなら、それに従っても問題はなかったのでは? なぜ妥協しなかったのですか。
明神 やはり消費者の顔が浮かんだからです。果たして、茶色のナイロンタワシを店頭で見た消費者は「効果」を感じてくれるだろうか? タワシに重曹をまぶしただけの商品に納得してもらえるだろうか? 消費者が『パワーズ重曹ブラッシュ』に期待しているのは、タワシと重曹とを別個に買って使う手間が省けることではないか、と。
そういうふうに考えたのも、やはり私が日常生活の中で商品化のアイディアを探すことを習慣にしていたことと無縁ではありません。
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